苦手じゃなくなった日
わたしは、昔から夕方がきらいだ。
なんとなく寂しいような、取り残されたような気持ちになる。明日が来る恐怖なのか、今日が終わる焦燥感なのか。とにかく夕方が苦手で、4時の鐘なんて聞いた日にはだいぶ鬱になる。
余談だけど、認知者高齢者も夕方に徘徊や混乱する例が多く、これを夕暮れ症候群という。
それはまあ置いといて。
そんな話を元彼にしたことがあった。
わたし、夕方がきらいなんだよね。
そうしたら、なんと彼も同じ感覚になるという。
昔夕方に車乗ってて、このままブレーキ踏まないどこうかと思ったことあるわ。
この話に同意を得られることってほとんどなかったから、それはそれは嬉しかった。運命の相手なんじゃないかと自惚れたりして。
その後彼と遠距離になり、彼の住む大阪に遊びに行った時のこと。もうすぐお別れの夕方、電車から見えるビルの間に沈む夕日は信じられないくらい大きくて、眩しかった。
すごい夕日だね、落ち込んじゃいそう。
前に共感を得られたから、そんな言葉を口にした。彼もなんとなく同意してくれたような気がする。
彼と同じ感覚であること。
わたしはその時その感覚を優先したけど、実は違ったの。
ほんとうにほんとうに大きい夕日で
燃えるように輝いていて
周りを全部太陽の色に変えて
今までの人生の中でいちばん綺麗な夕日だった。感動するくらい綺麗な夕日だった。
あのとき見た夕日は、嫌いじゃない。
心から綺麗だと思える、焦燥感も恐怖も感じない、素晴らしい夕日だった。
あのとき、夕日綺麗だねって言えてたら。別れる結果は変わらないと思うけど、偽りじゃない本物の気持ちで彼と共感したかった。
今でも綺麗な夕焼け空を見ると思い出す。悲しいけど、少し後悔してるけど、苦手だった夕日がちょっとすきになった輝く思い出。